「中国の行動原理(益尾知佐子著:中公新書)」

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著者は、中国の伝統的家族観を、「外婚制共同体家族」だと分析している。
・父親は家族に対して強い権威を持つ
・相続では、男兄弟は平等な扱いを受ける
・息子たちは、結婚後も両親と同居する
・新たな配偶者は、常に共同体の外から来る
息子たちは、それぞれ家父長と直接繋がりを持っており、各兄弟の間は不干渉というフラットな関係である。

このような中国の家族観は、共産党の絶対的な権威の下に平等な社会を築くという共産主義の考えと極めて親和性がある。

この「外婚制共同体家族」という社会秩序の問題点は、家父長の属人的要素に支配され、長期的な見通しが立て難いということにある。
何故なら、家父長1代ごとに、組織の目標や運営方法、スローガンまで変わってしまうのだから。

家父長が、役割を果たさず統率力が不十分なら、家父長の周囲にイエスマンが集まり、息子たち(つまり党、国家、軍、各省)は家父長の意向を忖度し、先回りしてバラバラに動き出す。この場合、息子たち同士の横の連携は全くないのだ。

毛沢東時代は、党内の政治闘争に明け暮れ、何千万という餓死者を出し、外交的には「穏歩」と「急進」の振り子現象が見られ、米ソ両大国との関係も最悪なものとなった。

鄧小平は、筋金入りの共産主義者であったが、経済は政治に隷属するものと考えていた。
計画経済がダメなら政治体制はそのまま温存し、経済体制だけ変えればよいと「改革開放」の道を選んだ。イデオロギー無視とも思える政経分離のキメラ状態は、鄧小平の超現実的な折衷案だったのである。

彼は経済発展のために対外環境は良好に保つ方向に修復を図っている。中国では、体制の保存こそが中国の対外政策の決定要因であり、ちぐはぐな対外活動の原因は常に国内社会にあるのだ。

胡錦涛は、凝集力を持たず、穏健派で弱腰と批判された。
彼は、家全体つまり中国をしっかりまとめることが出来なかった。家父長の能力のなさを見抜いた息子たち(つまり党・軍・国・各省)は、表面的には父をたてて服従しつつも、それぞれの利益拡大を目指してバラバラな行動をとり始めた。結果、党中央の意思に反して、中国をめぐる対外環境の緊張は高まった。中国社会が外部社会に対してどのような行動をとるかは、家父長と息子たちの関係性という国内要因による影響が非常に大きい。

習近平は、強面で有能な「万能主席」と言われるとおり、正統派のリーダーである。
彼は、胡錦涛の凝集力のなさに危惧の念を抱いており、就任当初から党・軍・国の各系統の息子たちに対して統制を強化することで、自分の意思を中国の各領域に浸透させようとしている。トップダウンで中国全体を動かそうとする彼のやり方は、中国の伝統的な、「強面で有能な家父長の姿」そのものである。

これまで中国の組織については、組織間の連係、特に国家系統と軍系統のそれが、きわめて弱く、行動がちぐはぐで指導者の意図が推し測りにくいという弱点が指摘されてきた。
特に海洋問題では、その状態が対外的な衝突のリスクを高めていると懸念されていた。

彼は、胡錦涛政権時がそうであったように、「部下たちの勝手な行動で、党中央が流される」状況を作ってはならないとの問題意識のもと、対外関係の「集中的統一的領導」を目指す為の数々の機構改革を断行した。

結果として、強力な家父長の下、各地に配置された息子たちが、自分の守備範囲の対外活動に統一的で明確な責任を負わされるようになっている。

国際関係は常に複雑である。習近平も主権問題では譲歩しにくいが、中国の行動は彼の治世下で安定し、突発的な行動は減り、外部からも予測しやすくなっている。

著者は、習近平の治世下での今後を、個々の中国人の対外行動が全体的に、党中央の意向を受けて、かなりお行儀よくなるだろうと述べている。
例えば香港の反中デモに対して、軍隊による鎮圧をせず踏みとどまっている如くにである。

確かに中国側の視点から見れば、習近平のやり方は、中国の人々に実利をもたらしており、国内的には支持されている。また対外活動にも統制がとれて安定感が増したようにも思える。

しかし翻って、我々民主主義の価値観を持つ西側の国から見て中国はどのように写っているのだろう。

西側からは、そもそも自由主義経済と権威主義的な政治体制の組み合わせには無理があり、中国は成長を遂げた後は、必ずや民主化するだろうと想定していた。しかし案に反して、そのキメラは益々肥大化を遂げて底知れない力を蓄えつつある。

中国は自分達の自由経済を不公正な形で活用し、自己利益の拡大に励んでいると見える。
一方、中国としては、「自分達は自由主義経済の意義に共鳴して市場経済を採用したのでなく、政権維持のため便宜的に活用しているだけである。自分達は自由貿易を推進し、民営企業を国としてしっかり支えているのに、何の不満があるのだ」という考えである。

両者の言い分は、全くかみ合わず、トランプ大統領が習近平に貿易上の圧力を加えれば加えるほど、中国国内はまとまり、両者間の溝は深まるばかりである。

もともと中国には、宋の時代には世界のGDPの6割を占める大国であったというプライドが根底にある。朝貢/冊封体制で、2000年もの平和な世界秩序を築いていたものを、19世紀以降、列強により対等で相互不干渉の「近代主権国家体制」へという一方的で過激な秩序破壊が為されたという猛烈な不満がある。

著者は、否定しているものの、巷間、中国はかつての「中華帝国の復興」を目指しているという説もあり、いよいよ習近平は、これまでの「韜光養晦」の仮面を脱いで、米国の覇権に挑戦して来たと警戒している。製造2025の如くにである。

一帯一路、海のシルクロード、情報の一帯一路(5G)、AI、サイバー、北極・南極・深海・ひいては月の裏側まで食指を延ばす膨張政策・・・

新型コロナ撲滅において示されたように、相当乱暴な方法は採ったにせよ、共産党独裁下にある中国の問題処理能力は相当に高いものがある。これらの事を思う時、西側諸国が警戒感をあらわにするのも、無理からぬものと言えるだろう。

著者も述べているが。
憂慮すべきは、習近平後の世代交代であろう。

家父長が長期間にわたって上からの統制圧力をかければかけるだけ、息子たちの間には不満が鬱積し、圧力がなくなった時の拡散力が強くなる。習近平の治世は長期にわたって続くだろうが、習近平とて不死の存在ではない。
習近平という重しを失ったときに、中国のキメラはどうなるのだろうか。

中国は、面積で世界第4位、56の民族からなり、14憶の民を抱える。
本来なら、それぞれの省が1つの国であっても不思議はないほどの大国である。
古来、この巨大な国の舵取りは、天命を帯びた特別な人物にしか出来ないと言われている。
今後の中国の舵取り如何は、日本の将来にも死活的な影響を及ぼす筈である。

中国の巨大キメラは、中国を、そして世界をどこへ連れて行こうとしているのか、背筋が寒くなる思いで見ている。

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この記事へのコメント

2020年04月05日 15:14
こんにちは

なるほど。
中国の家族観ですか。
14億ですもんね。
凄いですよね。
2020年04月05日 21:34
ですよね。
何てったって14億ですからね。
多少、文句があっても誰も何も言えないわけですよ。
数十年後には、インド13億の時代が来るかもしれませんけど、
当分は中国の天下が続くでしょう。
経済力、軍事力でアメリカに追いつけ、追い越せという感じですから、お付き合いも難しいですね。